一人で読み切れない本は、一人で読み切らなくていい
三回買い直した本がある。二回とも同じあたりで止まった。三度目こそはと思って開き、また同じ場所にいます。読み切れない本には、読み切れない理由があります。
本を一人で読み切れないのは、能力が足りないからですか?
違います。世の中には、一人で読み通される前提で書かれていない本があります。読み切れないのは、その前提と読み方が噛み合っていないからです。
分かりやすい例が教科書です。教科書は、教える人がそばにいる状況を前提に作られています。だから説明が短く、演習が多く、行間が広い。教科書を一人で読み通して理解するのは、そもそも設計外の使い方です。 難しい本の多くは、この教科書に近い設計をしています。
一人で読む前提で書かれていない本は、どう見分けますか?
三つの特徴のうち二つ以上が当てはまれば、その設計です。
一つ目は、演習や課題が本文と同じ分量で置かれていることです。 手を動かすことが前提になっています。読むだけでは、著者が想定した経路の半分しか通っていません。
二つ目は、章の終わりに要点の整理が置かれていないことです。 整理を読み手が作る、あるいは教える人が与える前提になっています。整理が置かれていない本を通読すると、章ごとの骨格が残りません。
三つ目は、著者の他の著作や講義を参照する記述があることです。 「詳しくは別著で」「講義で扱った」と書かれていれば、その本は単体で完結していません。完結していない本を単体で読み切ろうとすると、書かれていない部分で必ず止まります。
見分けがつくと、扱いが変わります。読み切れなかったのは自分の粘りではなく、単体では完結しない本を単体で読もうとしていたからだと分かります。
読み切るには、何をすればいいですか?
読む速度を上げるのではなく、進行を管理できる形に変えます。以下は今日から始められます。
1. 本を章ではなく、十五ページごとの区画に切り直します。 章は長さがばらばらで、進行の単位になりません。区画は物理的な長さでそろえます。
2. 一区画ごとに、終わったら一行だけ書きます。 内容の整理ではありません。「この区画で著者が言いたかったこと」を一文で書きます。書けなければ、その区画は通過していません。
3. 書けなかった区画は、番号だけを別紙に書き出します。 本を汚さないほうが、後で見返しやすくなります。
4. 区画三つ分を一回の単位として、期限を決めます。 「今週中に三区画」で十分です。全体の読了日を決めないでください。決めると、遅れた時点で読むこと自体をやめます。
5. 一行の記録を、誰かが見られる場所に置きます。 紙でも共有の文書でもかまいません。見られる状態にあるだけで、記録の精度が上がります。
二週間続けると、一行が書けなかった区画がまとまって見えてきます。多くの場合、全体の一割から二割です。読めていなかったのは本全体ではなく、その一割から二割です。
区画に切ると、読書が作業になりませんか?
なります。ただし、読み切れていない本については、作業にしたほうが終わります。
楽しみとして読む本は、管理する必要がありません。読みたいから読み、飽きたら置く。それで問題は起きません。管理が要るのは、読み切りたいのに読み切れていない本だけです。 二つを同じやり方で扱うと、どちらもうまくいきません。楽しみの本に期限を付ければ楽しみが減り、読み切りたい本を気分に任せれば終わりません。
区画に切ることで失われるものはあります。長い文章を一息で読む感覚は、たしかに薄れます。その代わりに、どこまで進んだかが数字で見えるようになります。 終わりが見えない作業は、負荷が同じでも続きません。見えるようにするための切り分けです。
読み切ったあとで通しでもう一度読めば、失われた感覚は取り戻せます。一度も読み切れていない本には、取り戻す機会そのものがありません。 順序として、まず一度通すことが先になります。
この管理で埋まらないものは、何ですか?
進行は管理できます。理解は管理できません。
一行が書けた区画が、正しく読めているとは限りません。書けたという事実は、自分の中で筋が通ったという意味しかありません。 筋は、誤読していても通ります。むしろ誤読のほうが、都合よく通ることがあります。
そして、一人で書いた一行を、一人で採点することはできません。採点には、同じ本を先に読み解いた人の一行が要ります。二つを並べて初めて、ずれが見えます。
区画に切って進めた記録は、そのまま渡す材料になります。どの区画で一行が書けなかったかが、既に特定されているからです。 渡された側は、その区画だけを見れば済みます。全体を説明する必要がありません。渡す負担が小さいほど、実際に渡してもらえます。
一人で読み切れない本は、一人で読み切らなくていい。 単体で完結していない本なら、なおさらです。
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